私たちのブルース ~苦労の多い人生

Netflixドラマ「私たちのブルース」を最終話まで見届けた。

済州島を舞台に全20話のボリュームで登場人物たちの人となりと関係性を丁寧に描いていくドラマだった。物語は主にふたりの人物の関係性を中心に、鎖の目がしっかりと連なっていくようにエピソードが重なり合っている。

そしてどのエピソードも片方の目線からではなく、諍いを起こした相手側の目線からも丁寧に描かれるのでどの人物も嫌いになれないどころか、それぞれの抱える苦労の多さに労いの言葉をかけてやりたくなる。そんな優しさに溢れたドラマだった。

取り扱うテーマも子供の教育、未成年の妊娠出産、障害者の家族、うつ病と離婚と親権裁判、友情の変化、生い先短い老親との関係など多岐に渡る。だが、自分の家族に当てはめてみても決して無縁とは言えない。自分から周りの人には話さないが誰もが割と普通に抱える家族の問題だ。

また、全編を通してよく出てきたのが家でご飯を食べるシーンだ。大喧嘩の直後でも身重の娘に朝食を作ってやる市場勤めの父、どんなに悲しい事があっても泣き喚く孫娘に「まずはご飯を食べなさい」と促す祖母、ついに打ち解けられた息子が好きだったテンジャンチゲを用意する死の間際の母。

人が生きていくということは、ご飯を食べることと同義だ。もっといえば人を生かすことは、ご飯を食べさせることだともいえる。家族が健康に善良に幸せにいられるよう食事を用意する人の気持ちがこのドラマのテーマの良いアクセントになっていたように思う。

人間関係が希薄な都市に暮らす現代人からすると、済州島の緊密な村社会的な人間関係は暑苦しくて煩わしいと感じる部分もあるかもしれないが、実力を備えた百戦錬磨の俳優陣の人間味あふれる演技は人間の普遍的な喜怒哀楽のドラマをみせてくれる。

エンドロールのメッセージにもあったように、苦労の多い人生だが、私たちは不幸になるために生まれたのではない、幸せになるために生まれたのだ。